ベートベンの素顔 ベートーベンの小径と交響曲第6番  2020年秋 ベートーベン生誕250周年企画 共同通信より5週連載コラム No.1


「ベートーべンの小径」と彼の胸像はウイーンの北部にひっそりとたたずむ。木々に覆われた小径は小川沿いにあり、せせらぎの音とそよ吹く風が心地よい。散歩を日課にしていたベートベンは作曲用のメモ帳とともにひたすらこの辺りを歩いたそうだ。

かくいう筆者もオペラ作品の演出の構想を練るとき自然の中でひたすら散歩をする。そんなときにふっと天からアイデアが降ってくることがあるのだ。もしかしたらベートーベンもそんな感じだったのかなあ、などと思いをはせる。

「ベートーベンの小径」を外れ、しばし坂を登っていくと突然視界が広がり、眼下にはドナウ川が流れ、目の前には青空に光り輝く一面のブドウ畑、という風景に出くわす。初めてこの場所に立ったとき、ベートーべンの交響曲第6番「田園」1楽章がふと頭の中で流れた。ベートベンの魂との出会い、そして、デジャビュ。音楽とともに当時の農民の様子も脳裏に浮かんだ。

第6番は珍しいことにベートーべン自身が各楽章にも表題を付けている。第1楽章は「田舎に着いた時の楽しい感情の目覚め」。弦楽器による軽快で明るくスキップをするようなメロディーで始まり、それが少しづつ発展して音楽が膨らんでいく。まるで、前奏をへて緞帳が上がると舞台上にはブドウ畑のセットと農民役の歌手。曲の進行とともに鳥が鳴いたり嵐が来たり登場人物が増えたり、そんな舞台作品を見ているような気がする。

ドナウ川からのそよ風とキラキラ輝くぶどう畑に陽気な農民たち。難聴に悩んでいたベートーベンもきっと心癒されたに違いない。


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