素顔のベートーベン 音楽の革命家 恋多きベートーベン 月光  2020年秋 ベートーベン生誕250周年企画 共同通信より5週連載コラム No.2

ベートーベン生誕250周年企画 共同通信より2020年秋5回連載コラム 



生涯独身だったベートーベン。しかしほれやすい男だったことは、死後に見つかった手紙などから十分に推測できる。ロマンスのお相手は大抵が身分の違う上流階級の女性、そして、既婚者が多いことも結婚まで至らなかった大きな理由だといわれている。ベートーベンは恋愛に関してはモラル重視の真面目な男だったようで、既婚女性へは愛の炎に心を焼かれつつも、自ら身を引いていたようだ。そんなベートーベンだが、恋い焦がれる心のうずきをちゃっかり作品化することにはたけている。交響曲第5番「運命」や合唱「歓喜の歌」で知られる交響曲第9番のように荒々しく激しい音楽のイメージが流通しているが、多くのロマンティックな音楽を残している。

ピアノソナタ 第14番 通称 「月光」もその一つ。ウイーンに引っ越し、大都市暮らしにも慣れてきたベートーベンが、貴族の娘ジュリエッタに捧げた作品だ。一楽章はゆったりとしたテンポで、「タタタ、タタタ」、と淡々と3連符が続く。

この3連符の上に身に染み入るような甘く悲しい和音が乗って、その響きは時空を超えて深く人の心に届く。短調の悲しい調べに時折、雲の間から光が差し込むかのような明るい響き。三連符は絶え間なく時を刻みつつ、しかし少しづつ変化する。その様は両手を空に徐々に広げ、かすみのような目の前の愛をなんとかつかみ取りたいともがき、そして諦める。そんな甘い苦悩の中にいるベートーベンを感じる。

抑えようのない愛の甘美と、その恋が結ばれない心の嘆きや痛み、ため息が聞こえてくるようだ。この曲を聴いているとその恋心に共感して思わず涙が出てくる。この作品はベートーベンが存命中からかなりの人気を博したそうである。恋の痛みは古今東西変わらないのだ。


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