素顔のベートーベン 音楽の革命家  山の上から人間界を見下ろす時 交響曲第9番 ベートーベン生誕250周年企画 共同通信より 5回連載コラム No.5

山の上から人間界を見下ろす時 交響曲第9番


頑固で変わり者だっ

たと言われているベートーベン。足しげく通ったのは湯治である。あちこち体の不調を訴えていた彼はヨーロッパ中の温泉保養地で湯治を試みている。ウイーンの近郊都市、バーデンもその一つ。ベートーベンがこよなく愛した街だ。ほのかに温泉の香りが漂うこの街では、ゆったりとした時間が流れ、訪れるものを優しく包み込んでくれる。

ベートーベンが住んでいた家で住所が分かっているのは現在7軒。そのうちの一軒が博物館「ベートーベンハウス バーデン」として公開されている。彼はこのアパートで交響曲第9番を書いた。

バーデン北部は緑豊かな丘になっている。ベートーベンハウスからその頂上まで徒歩数分で簡単に登ることができる。丘の上からはアルプス山脈に囲まれたこの美しい温泉避暑地が一望できる。家や人が小さく見え、空が近い。なんだか日常の悩みなどささいなことだと思えてくる。ここに立っていると、街を、世界を、自分の手中に収めているような、そんな大きな気になる。「…兄弟よ、自らの道を進め…」「…この星空の上に、聖なる父が住みたもうたはず…」といったシラーの詩に乗せて、壮大な交響曲第9番、歓喜の歌のメロディーが浮かんでくるようだ。

第9番の世界初演はその当時センセーショナルな企画だった。だいたい交響曲に大きなコーラスが入るなんて、それまで誰も聞いたこともなく、人集めは大変だったらしい。なんとベートーベン自ら率先してアマチュア合唱団員集めをしたそうだ。第9番の合唱団員募集?あれ、どこかで聞いたような話だ。今も昔も人間がすることは変わらない。音楽への愛は永遠だ。


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