オペラ修行の旅2  〜パリ 太陽劇団との出会い  体当たりのフランス生活〜

March 2, 2010

愛すべきウイーン、もはやここで私は生まれたんじゃないかとすら錯覚しつつあった大好きな街、第二の故郷ウイーン。いつ訪れても同じ時を刻み続けているのではないかとすら思わせるこの美しき音楽の都ウイーンを離れる日は予想以上に早くやってきました。

2009年夏にたまたまひょんなことからフランスの太陽劇団の公演を観劇したわけですが、その想像を絶する演出技術の完璧さ、素晴らしさに私は非常に感動。公演終了後その場にいた総支配人兼女流演出家アリアン・ムシュキン女史に思わず弟子入りを申し込んだのでした。そしてその一週間後には、何か見えない力に背中を押されるようにして荷物をまとめパリ行の夜行列車に乗りこんでいました。

 

このようにしてやってきたパリの太陽劇団ですが、この劇団はヨーロッパの演劇界ではとても有名で、またとても独特な劇団でもあります。 劇団と言うより、一つの小さな王国のようでありまた大きな一つの家族であるかのようです。場所はパリ郊外の自然公園の森の中にあり、勤務は稽古のあるときで朝の8時半から始まりますが、何しろ森の中なので近くにお店などは何もなく、したがって昼食から午後休憩時のおやつ、そしてなんと夕食まで、皆で一緒に一つの大きなテーブルを囲っていただきます。もちろんその用意をするのも片付けをするのもみんなでやるのです。同じ釜の飯を食う仲間、とはよく言ったもので、仕事で多少の食い違い等が合っても一緒にご飯を食べればすぐまた打ち解けます。稽古や本番以外の時間は、俳優自ら舞台装置を組み立てる、小道具を作る、かつらを作る、掃除、と皆で仕事を分担します。 リハーサルは時間を気にせず納得がいくまでとことん行われます。稽古の乗っているときは深夜まで稽古を返すこともあり、また乗らない時は皆で何時間もかけてその原因やその突破口、新たなアイディアなどについて話し合います。その結果、よくないと判断がまとまった場合は数週間もかけて稽古をしたシーンをカットしたり、何時間もかけて皆で作った舞台装置を廃棄することもありました。それに自分たちの演劇作品に納得がいかなければたとえ数百万円の損害があったとしても初日を延期することも当然の選択肢として行われます。

 

これらのことは、普通には考えられないことでしょう。どんな場面でも経済的観念がどうしても最優先されてしまう昨今で、ここまであえて芸術至上主義を貫いているこの劇団の在り方は私に今まで忘れかけていた、“妥協無き真の芸術のためのこだわり“を思い出させてくれました。しかしこの“芸術のためのこだわり“を貫くことがどれだけ大変か、想像がつくでしょうか?このこだわりを貫けず、妥協を余儀なくされて演出家が苦しむシーンをこれまで何度も見てきましたし、私がこれまで行ってきた演出活動でも常に妥協との戦いでした。 この芸術へのこだわりを貫いているこの太陽劇団はまれに無い劇団だと言えます。それも自分たちが世界に誇れる素晴らしい劇団だというプライドと、そのためには絶対に芸術に関して妥協してはいけないということのスタッフ全員の共通の理解、そして何よりだからこそ良い演劇作品を創りたい、お客様に喜んでいただける公演をしたいという熱意がこうさせているのだと思うのです。

その熱意を持ち続けている俳優、スタッフ、そしてそれを導き支える、総支配人兼演出家のアリアン・ムシュキン女史を私は心から尊敬しますし、このような仲間に出会えたことを本当に幸せに思います。

 

このようにパリの劇団で演出家のための修行をしておりますが、この劇場以外のところでも本当にいろんなことを吸収しています。言語、ラテン文化、絵画、劇場、シャンソン、歴史、戯曲、などの私の専門分野だけでなく、人間性、食べ物、気候、言葉の中のアクセント等など、数え上げればきりがありません。

特に文化や人間性に関しては今まで8年間にわたり住み慣れたドイツ語圏の国とは非常に対照的なことに驚かされます。特に北ドイツがどちらかと言うと悲観的なのに比べ、フランスはとことん楽観的なのです。 引っ越してきた当時はこのフランス流の「“今”が楽しければそれでいいじゃないか」的な楽観主義にいささか戸惑うことも多かったですが、このフランス人の辛いことも明るいジョークに変えてしまえるポジティブな精神性を見習うことも多いです。 例えば医療現場などでも笑いが絶えず、患者にまで明るい話題やジョークを振るお医者様たち。普通真面目なはずの医療現場で、このようなあっけらかんとした場面を見たときには本当に目からうろこが落ちたかのようでした。

また、フランス人は得てして繊細な感受性や五感を持っているように感じるのですが、気がつけばその多大な感性を持ってして創られるものは、色彩感覚=例えば絵画、聴覚=フランス音楽、味覚=フランス料理、嗅覚=香水など、すべては世界でもトップクラスのものばかりです。 沢山あるフランスの芸術ジャンルの中でも、私は特にフランス印象派の絵画が大好きなので時間を見つけては美術館に足を向けるようにしていますが、その天才画家たちが今に残した数々の作品の前に立つとその淡く複雑な色彩、タッチ、輪郭、光、それらの天才的な技巧からそのこだわりと深い感受性を感じずにはおれません。

どれだけの時間と労力を費やしてこの作品を仕上げたのか、その工程に思いをはせるとその膨大な仕事量に気が遠くなりそうですが、その芸術への絶対的なこだわりは、その程度の違いこそあれど、先ほどの太陽劇団の芸術へのこだわりと通じるものがあるようにも感じるのです。

 

 また、演劇やオペラの世界でも、実はパリはとても大切な場所です。なぜなら本当に沢山の有名な戯曲がこのパリという街を舞台に描かれているからです。有名なオペラレパートリーの中では例えば椿姫、ボエーム、マノン レスコーなど、イタリア語で書かれているオペラ故あまり意識されない方も多いかもしれませんが、話の舞台としてパリが登場するオペラ作品は多いのです。 実際に舞台になった環境を知るということは、その作品の理解を深めるうえではとても大切なことです。そういう意味でも、ここパリで勉強ができることをとても幸せに思っています。

 

2010年 パリにて

釣恵都子

 

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