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イタリアでオペラの演出をした三週間の気付き

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先週からイタリア北東の街、ゴリツィアに来ています。ここでオペラフェスティバルでオペラの演出をさせていただいております。

この街、めっちゃくちゃ可愛いいんです!マリーアントワネットの娘がフランス革命後にその旦那さんとここに定住したそうな。しかもそのアントワネットの娘率いるブルボン王家の末裔が住んでいた建物の一階でお稽古をしています。(その様子を7月5日日本時間の16時からYouTubeで30分間ライブ中継しました。その様子がYouTubeで見られます。こちらから。!詳しくは下記に。)

オペラはドニセッティの『リタ』という、喜劇でとっても楽しいオペラ。

このオペラのお稽古を通して、今本当にたくさんの気づきを得ています。

この気づきが大きくて、私の深層心理や凝り固まった常識ををまた一つも二つも塗り替えている感じ。。。どこから話そうか。。。


まず、このお稽古を始める前の準備は1年くらいかけています。昨年の6月にこの話があってそこから作品を読み込み、同年8月末にこのフェスティバルの会場などの視察をさせてもらい、演出の方向性を決め、9月にコンセプトの提出、年明けには演出プランに沿って変更した台本の提出(というのは、このオペラはオペラと言ってもセリフも結構あるオペラなのです。イタリア語だから大変だったーーー。)、それから舞台技術部、衣装、小道具、メークさん達との話し合い、リハーサルプランの決定、などなどなど。。。普通、ドイツではオペラの政策は五週間かけます。(ワーグなどの長いペラは六週間です)が、このオペラフェスティバルでは二週間半ほどしか練習時間をもらっていないので、準備を相当丁寧にしておかないと、ということで、5月末、6月頭のニュールンベルグでの指揮のコンサートが終わった後は私の集中力は100%マックスでこのオペラに注力して、演出プランを全部頭に構築しイタリア入り、、、、、という予定が、この6月頭から、なぜか恐ろしいくらいの睡魔に襲われて、集中できない、、、、、オペラのメロディーも歌詞も覚えられない、、、、なぜ?????という状況が続いていました。そんな難しい音楽じゃないんです。なのに、何度聞いてもどうしても覚えられないし、楽譜見ても全く頭に入ってこない、、、、、とにかく楽譜開くとものすごい強烈な睡魔に襲われ居眠りが始まる、、、、、という状況が続いており、イタリア入りする日程が近づけば近づくほど無性に緊張してきて、なんだかわからない内心のモヤモヤを抱えたままイタリア行きの電車に乗ったのでした。


イタリアまでの10時間の電車の中で、私の「一人でコーチングノート」を開き自問自答をして自分の中のモヤモヤ(どうしようもない不安感)を深掘りしていきました。(この方法、自分の心の中を整理するのにとても有効です。ノート術というやつです。興味あったらやってみて!)それで分かったことが、「完璧にコントロールしたいけどできない」ジレンマだった。心配要因は色々あって、例えば、イタリアの事務担当から帰ってくるメールは毎回とても遅くてそれにはもうこの数ヶ月ずっと悩まされていたし、そのメールのやり取りの中で特にリハーサルプランなど答えが返ってこないものも多く確実性がない。(照明リハーサルができるのかできないのかわかったのがゲネプロの3日前って。。。ドイツやオーストリアの劇場では、照明リハの時間は1年前には大体わかる感じなんですよ!こんなアバウトなの二十年間の演出家人生で初めて。。。)イタリア語の歌詞やセリフだって、何度も練習してはいても、イタリア人の歌手よりも上手く話せるようにはならない。。


この私の心のモヤモヤの理由に気づいた時、「わからない&できない、どうしよう」から「ぜーんぶなんとかなる」「信頼してみよう」に変えよう、と思ったんですね。そしたら、すごく楽になった。そこからです。このマインドセット(思考の意図的変化)でのぞんでいる稽古は、私がジタバタしなくてもお稽古もめっちゃスムーズに進んでいる。セットとか、まだ頼んだものが正確には届かないんだけど、それでも毎日ちょっとずつ、少しづつ、揃ってきている。まあ、本番までには間に合うでしょ!とおおらかに待つことにした。実は、集中できなくなった6月ぐらいからひどい便秘に悩まされていて、これって、精神的に苦しかったNY時代にもずいぶん苦しんでいて、この数年はもうすごく良くなっていたのにまた再発しちゃってたんですね。それが、そのマインドセットをしたことでふっと、便秘も治った!!体の症状は心の持ちどころの鏡、というのは本当ですね。


もう一つ気づいたことは、今やっている「Rita」というオペラはもう底抜けに楽しいオペラなんだけれど、オペラの準備の段階で私の心持ちが「ああ、オペラの演出準備-しなきゃ-」=must っていう声が私の中でいつも響いてたんです。これにあるとき気づいた。オペラ演出するのは大好きなんだけど、でも、オペラは私のとっては仕事だから、仕事=「しないといけない」= mustに勝手になっていた。でもさ、オペラのお稽古なんて、文化祭の準備みたいじゃない?そんなことを昼間っから大の大人達が集まって「これ、遊んでないで仕事しなさい!」とか親に怒られることなく、大手奮って真剣に全力で楽しいことを考えてお稽古できて、そんでもってお給料までもらえるなんて、こんなありがたい環境ないよね、って気づいた時に、自分の中の言葉をmust をwantに変えよう、って思ったんです。「〇〇しなきゃいけない」という言葉の中で楽しい覇道なんて出ないよね。「〇〇したい!楽しい!」って思うから楽しい波動がでて、それが歌手に伝わって、それが観客にも伝わるんだよね。プロダクションの真ん中にいる私が一番お稽古を楽しまなくてどうする!って思ったんですね。で、とにかく楽しもう、って思い始めたら、これまた稽古場でアイディアがぼんぼん出ること出ること。。。歌手からもいいアイディアがでたりして、どんどんといい作品になってきている、というか一週間でもうほぼ出来上がっちゃって、2週目はひたすら微妙な直しを加えて、二週間終わった後には相当の完成度。こんな最速に出来上がったオペラの稽古はこれまた人生で初めて!


私がこれまでオペラを演出する時って、自分の感覚ではオペラを自分のお腹の中に身ごもっていて、ずっとお腹の中でたった一人で重いお腹をうんうん多少苦しみながら大切に大切に育てて、公演初日が出産日、母ちゃんがんばって産み落とすよ!、みたいな感覚があったんですね。それが今回の、「なんとかなる」「周りに任せよう」という安心の波動で過ごしていると、なんだか私はもうお稽古が始まった時にスルッと安産しちゃって、保育室に入れられた我が子(オペラ)は、私の手を離れお医者さんや看護婦さん(歌手とか裏方さんとか)などたくさんの人の助けによって少しづつ少しづつ成長していっている、自分は放任主義、そんな感じがあります。


実際、明日は公演初日(プレミエ)なんですが、大道具は完成形をまだ見てないです。大道具小道具の担当者は他のプロダクションもかねているのでていっぱい。それに見かねて「作るの手伝うからいつでも言って」と何度も声をかけたけど、自分でやるからいいとのこと。その人の負担が減るように、簡単な小道具で最後まで揃わなかったものは私がこの数日ちゃちゃっと作ったりしちゃったけど、この大きなやつは私がその辺で調達できるものでもないので、もう、任せるしかない。向こうも大人だし、本番までにはなんとかするでしょう。。。と、心配するのをやめて、空いた時間を使って遠足に隣町まで行ってきましたよ。ゲネプロ前日に遠足する余裕があるのも人生初ですね。普段はプレミエが終わるまで何やかんやと作業に追われているもんね。。。すごい!まあとにかく自分の機嫌は自分でとって、いつも楽しい波動でいることも大切よね。


昨日は、ゲネプロの後(つまり23時ごろ)から照明リハーサルをやる、と言われていたので、いろいろスタッフのための夜食やお菓子なんかを買い込んでいざホールに向かったのだけど、いつまで経っても照明の仕込みをしないので、どうしたのか聞いたら、「照明のリハーサルするの今日は止めました」って。。。本番当日に本番やりながら照明は適当に作るのだとか。(野外オペラで日没が公演始まった後なのでその前に照明リハができない)こんな適当な技術部、そしてアバウトな照明でやる演出は20年オペラ演出家やってて初めてです!(汗)これももう任せるしかない。(1幕もののオペラでシーンが変わらないから舞台チェンジを照明に頼ることもないのでそれが幸いしていて、こういうことになりそうな予感があってなるべくシンプルな照明で済むように演出を作っている。)

 

とまあ、オペラはこんな感じなんですが、お稽古のかたわら、イタリアの生活もエンジョイしています。お稽古に入っている時って、まるで戦場にいるかのような、普段はオペラのことしか考えてなくて、何を食べているのか、いつ休んでいるのかすら考える隙間がない感じなんだけど、今回はこういう精神状態でいられるのと、泊めてもらっている場所にキッチンが完備していることもあり、また稽古場と泊まっているところがとても近いこともあり、毎日ほぼ3食料ちゃんと理しています!


まず、イタリア、おいしすぎです!スーパーに買い物に行って、毎回歓声をあげています。ミュンヘンだと一袋40ユーロもするシジミがその10分の1以下の値段で普通に売ってたり、昨日は新鮮な(というかまだ生きている)カニさんがたったの一匹80セント!!カニがそもそもドイツの普通のスーパじゃ買えません!昨日は生のイワシ三匹30セントで買ってきて、ささっと焼いて食べたらこれまた美味しいこと!!ゴリツィアは元オーストリア領だったことも関係するのか、海の幸だけでなく、陸の幸も素晴らしくて、とろんととろけるような水牛のモッツレッラも簡単にスーパーで手に入るし、トマトもきゅうりもドイツじゃ食べられないような美味しさ!パスタも見たことがないようなのがたくさんある。笑。。。イタリア生活をめっちゃ楽しんでいます!イタリアって食の国。これほんと。


イタリア人の歌手すごい! ドイツやオーストリア、アメリカでも、舞台稽古の時に歌手はほとんどマーキングと言って、歌声を本気で歌わないで声をセーブした歌い方で立ち稽古をし、フルボイスで歌うことはほとんどありません。しかも、それもしない、「trocken」(乾燥した、という意味)という、ピアノ伴奏なしで、口三味線で伴奏などを鼻歌で歌いながら、リズムをとりつつ演技をするという、そういうやり方で演技を練習したりもたくさんします。最初から歌わせると「声が持たないでしょ!」歌手に嫌がれることがすごく多いんです。しかし、今回のプロダクションの歌手達、出演者の3人ともイタリア人で、彼ら最初からガンガン本気で歌っている!途中、私が彼らを気遣って「trockenでやろうか?」とピアノを止めようとしたら「リズムが大切なんだから歌わせてよ」と言われて、またガンガン本気で歌う。。。。朝から晩まで彼ら、本気で歌っています。だから、演技にももちろん熱が入り、とってもいい舞台が出来上がってきています。一週間ずっとその調子なので、喉が疲れた、と言われないかと心配になって土曜日に「あなた達大丈夫なの?」と聞いたら「ちゃんとしたテクニックの歌声ならいくら歌ったって疲れないよ」だって!おったまげた!


イタリア人の人たち休みすぎ! 先週からイタリアに来ていますが街がすでに夏休み満載の雰囲気。ミュンヘンは7月いっぱい学校がやっていて8月1日から夏休みに入るのでまだまだ平常のイメージだったのでそのギャップに驚き「いつから学校は夏休みなんですか?」って聞いたら「6月1日からだよ」早い!びっくりして「え、いつまで夏休みなの?」って聞いたら「9月末まで」との答え。三ヶ月間も休むんか、この国の人達!!!そりゃ奔放に育つわな。。。


ついこの間の金曜日の午後の稽古の合間に、歌手達がカフェを買ってくる、と近所のバールに出掛けて行ったのだが、手ぶらで帰ってきた。どうしたの?と聞いたら「町中のカフェが閉まってた。」って!本当は営業時間なのにも関わらず!「今日は暑いからみんな海にでも言ったかな。」とイタリア人。それですんじゃうこのおおらかさ。ドイツだったら個人店でも営業時間中に気分が変わって店を閉める、なんてことはほとんどない。

自分をその時の気分を大切にするこの感性と、休むときはしっかり休む、そういう文化、いいよね。全力で一日中歌っても疲れないこの強靭な体力も、そういう、「休みたい時には休む」そういうメリハリから来ているのかもしれない、と思ったのでした。


ゴリツィア最高!!この北東の街は、本当に治安がいい。そして安い!この間ピザを買ったら2.8ユーロだった!この値段じゃ、コーヒー一杯も買えないよ!街も綺麗で、しかもこの街の隣町、トリエステという街も美しい。トリエステは電車で50分くらい。(ミュンヘンだったら市内移動くらい。)トリエステは昔ハプスブルグ家の支配下にあって、王様がこの街を気に入っていたとかで、街がとても綺麗にオーストリア風に整備されています。小ウイーンと言われるのも納得の美しさ。イタリア的な美味しい魚介類とお洋服屋さんがわんさかあって、街はウイーン風の洗礼されている感じ、しかも海が綺麗、と3拍子揃っていて、ウイーン好き、海好き、シーフード好きの私にはいいとこ取りすぎてたまりません。イタリア旅行はここにリピ決定かも。。。

 

ということで、残り数日のイタリアでまたどんな気づきをもらうのか。楽しくこの環境を楽しみたいと思います!

 

 

 
 
 

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